宝物
「ありがとう」の言葉にひかれてつい買ってしまった。
私は「ありがとう」の言葉を使い慣れていない。
最近はこの魔法の言葉「ありがとう」をたくさん使うように心がけている。
今は「ありがとう」って言っても何も返ってこないことの方が多い。
ありがとう
ありがとう
ありがとう
ありがとう
声に出して言ってみる。
なぜか子どもの頃のことを思い出した。
私が小学校1年生の遠足の時だ。
私の両親は共働きで、たぶん付き添えなかったのだろう。
その時の写真に写っているのは6年生の兄だ。
兄と2人でその時に買ってもらった「ポンポン船」を誇らしげに持って写っている。
小学校6年生といえば、まだ本当に子どもだ。
今、私は兄と休みが違うので、なかなか一緒に過ごすことは少ない。
それほど仲がいいとも言えない。
でも、この時のことを思い出すと、「兄弟の絆」「家族の絆」を心の底にじわっと感じる。
「ありがとう」
やはり小学校低学年だったと思う。
庭で一人で遊んでいると、母が家から出てきて10円玉を磨いてくれという。
黒ずんだ10円玉を砂でこすると、だんだん赤褐色の銅の色になってくる。
「ほら、綺麗だろ。」
2人で並んで、10円玉を庭の砂で磨いている。
記憶がぼんやりしているが、多分母は私と遊んでいるつもりだったのではないか。
いつもは大勢で遊んでいる私が一人で遊んでいたものだから、ちょっと気を使ったのかもしれない。
この時のことを考えると、胸がじわっと酸っぱくなる。
「ありがとう」
なんとも、人には何も感じられないような出来事です。
でも、私の中ではものすごく胸の奥深くに、大切にしまわれている記憶です。
時々、ふっと顔を見せる宝物です。
